成瀬映画に登場する風景

『歌行燈』(1943年)A  2020.7.16

映画の中盤、亡くなった宗山(村田正雄)の娘・お袖(山田五十鈴)は(伊勢)山田の「春木屋」で芸者になっているが、
三味線が下手で叱られている。
『鶴八鶴次郎』や『流れる』での山田五十鈴=三味線の名手の役と比較すると面白い設定。
喜多八(花柳章太郎)はお袖に舞(能の演目=松風)を教えることを決意する。

「春木屋」の前での二人の会話。録画DVDからの採録。
原作=泉鏡花、脚色=久保田万太郎。そして本作の撮影は戦後の黒澤映画で有名な中井朝一。

〜(略)
喜多八「よし、俺が芸を教えてやる」
お袖 「まあ、兄さんが」
喜多八「今夜の夜明けから七日の間、七日間で教えてやる。
    姉さんには五十鈴川(いすずがわ)で水乞いをとって願をかけます、そう言って家を出な」
お袖 「で、どこへ」
喜多八「鼓ヶ嶽(つづみがたけ)の松原に来い」
〜(略)

五十鈴川は伊勢神宮の内宮を流れる清流。ネット検索したが鼓ヶ嶽はどこだかわからない。
泉鏡花の原作でも五十鈴川と鼓ヶ嶽となっている。
映画では早朝「春木屋」から小走りで急ぐお袖の姿が何度か登場する。
台詞と地理関係からいって、五十鈴川に沿った松林であろう。
実際のロケーション場所が同場所かは不明。

早朝の淡い木洩れ日の中で、舞の稽古をする花柳章太郎と山田五十鈴。
成瀬映画には珍しい俯瞰ショットが効果的に使われている。
成瀬映画の数多い美しい屋外シーンの中でも一二を争う名場面だ。
当時25-6歳の山田五十鈴の美しさに圧倒される。
    

        


NEW2020.7.28写真と記述追加

伊勢神宮の内宮を流れる五十鈴川。字は異なるがこの正面の森の方面に「鼓ヶ岳(つづみがたけ)」(伊勢市)という標高355mの山がある。
管理者は先日初めて伊勢神宮に参拝した。その時に撮影した写真。伊勢神宮に参拝したことがある方ならご存知の「御手洗場(みたらし)」。
映画では松林の中で舞を伝授するので、場所は鼓ヶ岳(原作では鼓ヶ嶽)に登る入口あたりかもしれない。
山田五十鈴の芸名がこの五十鈴川から来ていることを初めて知り、『歌行燈』との因縁を感じた。


ロケ地とはまったく関係が無いが、伊勢市の観光マップに掲載されていた成瀬監督の親友にしてライバルだった小津安二郎監督ゆかりの場所に立ち寄った。
小津監督が少年時代に通っていた「旧宇治山田中学校」跡(伊勢市・船江公園内)。生誕100年の2003年に建てられた記念碑とのこと。

 


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